漢方・漢方薬の輸入、栽培、製造、販売までを一貫して行うメーカーです。

株式会社 栃本天海堂

2011年 中国生薬市場の展望

はじめに

 2009 年中盤から中国生薬の輸出価格が高騰しはじめ、2010 年の生薬相場は過去に例をみない値上りになりました。この背景には色々な要素がありますが一番注目すべきは医療制度の改革による中国国内需要の増大であります。都市部の労働者だけが医療保険の対象であったものが6 年位前から徐々に児童や農村部に拡大し、今は全国民の殆どが医療保険の適用を受けるようになり、中国国内における中成薬原料の生薬需要が高まり、投機的買い占めも起こり市場在庫が急激に減少した事が主因と思われます。

中国産生薬高騰の背景

I.人件費の上昇
 昨年、新聞を賑わしている様に自動車関連などでストが多発し、中国国内の人件費が上 昇しております。弊社の中国合弁会社の女子作業員の人件費においても周辺の工場の人件費に引きずられ、前年初期と比べ約60%の上昇となっております。中国経済を支えてきた低賃金・労働集約型経済の終焉がうかがえます。

II.中国農村部の人口減少及び高齢化
 中国経済の高度成長にともない、所得差により農村部から都市部(沿岸部)に労働力が 吸収され、農村部の人口が減少し、農村部においては女子と老人が農業生産の主流になっています。これは日本の高度成長期にも同様の現象が起こっており、日本の生薬生産の減少へと繋がっています。

III.資源の枯渇・環境保全
 「甘草」「蒼朮」「和白朮」「防風」など野生資源に依存している生薬は資源の枯渇が著明で、全国、省単位などで採集規制や輸出制限が行われています。一部栽培化も徐々に進んでいますが、これらの品目はまだまだ野生品種の依存度が高く、価格上昇は避けられないのが現状であります。

IV.都市部と農村部の所得格差是正政策
 都市部と農村部の所得格差は社会的問題として政治不満が高まっており、中国政府はその是正の為に米など主要農産物の価格を引き上げる政策を行っています。過去の計画経済では生産調整などは容易でありましたが、社会主義市場経済では自由に、より利益の多い農産物に転作されます。多くの生薬は多年生である為に生産者は価格変動、生産量のリスクを嫌う傾向が強くなり、生薬の生産を維持、増産するには通常の穀類、野菜などの農産物より生産者の利益を高める必要があり、生薬の価格上昇は避けられないのが現状であります。

V.中国国内における中成薬需要の拡大
 中国保健制度の改革において医療保険の対象となる医薬品は国家基本薬物目録に定めてあり、第一部は西洋薬、第二部は中成薬、第三部は中薬飲片(生薬)が記載されています。基層医療衛生機構(規模の小さな病院、診療所など)では、この国家基本薬物目録に定められた品目しか使用出来ない事になっています。

VI.人民元の切り上げ
 アメリカ等の貿易摩擦による人民元切り上げ要求により、徐々に人民元は切り上がり、この事が生薬価格の上昇の一因にもなっています。更なる人民元切り上げ要求も強く、近い将来さらに人民元は上昇し生薬価格にも大きく影響すると考えられます。

VII.投機目的の買占め
 中国政府の金融緩和政策によって、2008 年のリーマン・ショック後においても中国経済は順調な伸びを示し、潤沢な資金が不動産などの価格を引き上げ、一部の生薬も投機的商品の対象となり、これも生薬の価格上昇の一因になっています。

中国産生薬市場の年次中国輸出動向

 中国国家統計局が発表している2002 年~ 2009 年の生薬輸出統計を示します。
 輸出統計の商品コードはHS条約によって決められており、国際的に取引の多い品目(甘草・桂皮・麻黄など)は個別の識別コードを持つが、多くの生薬(柴胡・防風など)は「その他」に分類されています。

 2008 年から価格が急上昇し、中国の輸出量は減少しており、日本向けも同傾向が見受けられます。日本向けの輸出量は全輸出量の9.2%(2009 年)に過ぎません。

§ 2011 年生薬市場の動向
 2010 年の価格上昇は過去に例をみない変化で、2010 年産の全生薬が2009 年以上の値上がりをしております。この現在の中国における生薬価格が中国の経済発展、経済状況において妥当な水準か、どうかの判断は非常に難しい状況です。それでも安定供給を確保するにはこの高値でも契約せざるをえませんが輸入原生薬の価格が現在設定されている生薬薬価よりも高い品目が増えており、一部の医療用生薬においては薬価内価格での販売が困難になる事が予想されます。また高品質の原料生薬で生産していた医療用生薬もグレードを下げて生産する事も検討しなければならなくなります。

株式会社 栃本天海堂の取り組み

*甘草などの野生品種の栽培化
 環境問題、資源枯渇問題で象徴的な品目である「甘草」に関しては1999 年から商業栽培を開始し、現在年間10 ~ 20MT の栽培甘草を生産しております。
この栽培甘草は中国西北部の黄土高原で栽培年数6 年以上かけて生産し、日本薬局方にも適合しております。ただ生産コストが野生品種より割高の為、調剤用生薬としては商品化をしておりませんが、野生甘草の供給不安に対処できる体制は準備しております。

*国内生薬栽培の推進
 漢方生薬の80%近くは中国に依存しており、最近話題になっていますレアアース問題の様に生薬原料を中国一国に依存していると、輸出国の状況によっては生薬の供給不足が起る事も考えられます。過去においては多くの生薬が国内で生産されていた事を踏まえ、弊社では京都府の福知山にて自社薬園を設置し、直接管理の生薬栽培を行っております。

 この薬園の主な目的は、国内生産を増やすために栽培希望者に優良種苗を安定的に供給する事と栽培指導を行うモデル栽培地の設置であります。

*中国産生薬の安定確保
 1995 年、中国に合弁会社「天惠保健品有限公司」を設立し、生薬の生産地から直接買付も行い良品質の生薬購入を行っております。また不足分を補完する意味でも中国大手の生薬供給会社とも親密な関係を維持しており、生薬確保には万全の体制で取組んでおります。

株式会社 栃本天海堂
姜 東孝