2009 年中盤から中国生薬の輸出価格が高騰しはじめ、2010 年の生薬相場は過去に例をみない値上りになりました。この背景には色々な要素がありますが一番注目すべきは医療制度の改革による中国国内需要の増大であります。都市部の労働者だけが医療保険の対象であったものが6 年位前から徐々に児童や農村部に拡大し、今は全国民の殆どが医療保険の適用を受けるようになり、中国国内における中成薬原料の生薬需要が高まり、投機的買い占めも起こり市場在庫が急激に減少した事が主因と思われます。
中国国家統計局が発表している2002 年~ 2009 年の生薬輸出統計を示します。
輸出統計の商品コードはHS条約によって決められており、国際的に取引の多い品目(甘草・桂皮・麻黄など)は個別の識別コードを持つが、多くの生薬(柴胡・防風など)は「その他」に分類されています。
2008 年から価格が急上昇し、中国の輸出量は減少しており、日本向けも同傾向が見受けられます。日本向けの輸出量は全輸出量の9.2%(2009 年)に過ぎません。
§ 2011 年生薬市場の動向
2010 年の価格上昇は過去に例をみない変化で、2010 年産の全生薬が2009 年以上の値上がりをしております。この現在の中国における生薬価格が中国の経済発展、経済状況において妥当な水準か、どうかの判断は非常に難しい状況です。それでも安定供給を確保するにはこの高値でも契約せざるをえませんが輸入原生薬の価格が現在設定されている生薬薬価よりも高い品目が増えており、一部の医療用生薬においては薬価内価格での販売が困難になる事が予想されます。また高品質の原料生薬で生産していた医療用生薬もグレードを下げて生産する事も検討しなければならなくなります。
*甘草などの野生品種の栽培化
環境問題、資源枯渇問題で象徴的な品目である「甘草」に関しては1999 年から商業栽培を開始し、現在年間10 ~ 20MT の栽培甘草を生産しております。
この栽培甘草は中国西北部の黄土高原で栽培年数6 年以上かけて生産し、日本薬局方にも適合しております。ただ生産コストが野生品種より割高の為、調剤用生薬としては商品化をしておりませんが、野生甘草の供給不安に対処できる体制は準備しております。
*国内生薬栽培の推進
漢方生薬の80%近くは中国に依存しており、最近話題になっていますレアアース問題の様に生薬原料を中国一国に依存していると、輸出国の状況によっては生薬の供給不足が起る事も考えられます。過去においては多くの生薬が国内で生産されていた事を踏まえ、弊社では京都府の福知山にて自社薬園を設置し、直接管理の生薬栽培を行っております。
この薬園の主な目的は、国内生産を増やすために栽培希望者に優良種苗を安定的に供給する事と栽培指導を行うモデル栽培地の設置であります。
*中国産生薬の安定確保
1995 年、中国に合弁会社「天惠保健品有限公司」を設立し、生薬の生産地から直接買付も行い良品質の生薬購入を行っております。また不足分を補完する意味でも中国大手の生薬供給会社とも親密な関係を維持しており、生薬確保には万全の体制で取組んでおります。
株式会社 栃本天海堂
姜 東孝