漢方・漢方薬の輸入、栽培、製造、販売までを一貫して行うメーカーです。

株式会社 栃本天海堂

2009年 中国生薬市場の展望

はじめに

 野生種の生薬資源枯渇が問題になって久しく、毎年各分野で取り上げられてきていますが、現在まで大きな供給不安も無く概ね平穏に推移してきたと言えます。しかし、2008年は最大の漢方生薬供給国である中国の国内事情に大きな変化が見られ、生薬資源の枯渇が急激に表面化してきています。
 また、中国産野菜の残留農薬問題に端を発し、餃子の農薬混入問題、牛乳へのメラミン混入など中国産農産物の安全性に対して非常な関心の高まりを見せており、特殊農産物である生薬においてもTRACEABILITYの要求が強くなってきています。これらの状況下において生薬資源の安定した確保にとって生産、供給、流通に大きな転換期がきていると言えます。

進む中国の環境破壊及び資源枯渇

 薬用植物の経済価値には、薬物としての貨幣的価値と植物が持つ生物多様性の生態に作用する社会的価値があります。統制経済から市場経済への変革は貨幣的価値のみが優先され社会的価値はなおざりにされ、社会的利益より個人的利益の拝金的社会風潮により乱獲による環境破壊が拡大してきました。
 漢方薬資源の無秩序な採掘は、植生を広範囲で破壊し、生態環境を悪化させています。特に内蒙古、新彊ウイグル自治区、寧夏回族自治区の砂漠化した地域では、固砂植物である甘草、麻黄、防風などが大きな問題とされています。
 特に甘草は深刻で資源量は1950年代の200万トン余りから現在の35万トン足らずに減少したと報じられています。甘草は根の深さが約10mにも達し、6㎡の土地を覆うため、甘草1kgを掘り出すのに、60㎡の植生が破壊されると言われています。
 多くの各省では採掘が禁止され、流通も規制され、取扱い業者も登録制で輸出量も制限されていますが、農村部の貧困が解決されない限り不法採掘は無くならないのが現状です。
また、この不法採掘により、生産された甘草で日本などの輸入量が賄われている面も否定できません。

生薬の中国生薬輸出現状

 中国の生薬(原料薬材)の年輸出量は年々増加しており、特に2002年〜2007年の中国輸出統計をみると輸出量は2002年143,557トン、2007年237,163トンと倍増しています。

 特に香港経由の新需要国やベトナムの伸びが大きく、漢方薬原材料の世界市場で80~90%近くを占める日本と韓国の輸入量の伸びはそんなに大きくなく、世界的に天然薬物の需要が増大していると思われます。

中国政府の生薬に関する基本姿勢

  • *生態環境の保護が基本に甘草・麻黄・肉蓯蓉・雪蓮・冬虫夏草等の固砂植物を中心に管理方法を制定し、断固たる措置をとる。
  • *国外より国内優先・食品より医薬品優先
  • *甘草・麻黄等の薬材資源状況を調査研究し、計画的栽培、総合的利用等を整えて、退耕環林・退耕環草を基礎に西部大開発を進める。

 中国政府の三農問題政策による農民所得倍増計画、自然保護、資源枯渇、国内外需要増大などの背景において、長年続いた安値安定供給は終焉を迎えたと言えます。
 世界的な農産物の高騰は特殊農産物である生薬においても無縁ではなく、生薬価格の上昇は自然の流れですが、最も危惧しなければならないのは安定供給にあります。
 また、各中国産地を見たところ、現状のままでは中国の生薬生産能力は限界の観が拭えなく、計画的な生薬生産を検討する時期にきています。

2009 年生薬資源確保の展望

 漢方生薬資源の最大供給国である中国の「環境保護」、「海外より国内優先」の方針は明確であり、今後、日本における生薬資源の確保は過去と同じ様にはいかないでしょう。生薬資源の安定確保なしに漢方・生薬業界の発展はあり得ない、その為にも中国における環境保護の協力、栽培事業の参入は不可欠であり、積極的な行動が求められています。
 また、中国産野菜の安全性不安に端を発した国民の意識は、価格よりも国産品の再評価へと変化している中で「国内で生産できるものは国内で」「地産地消」の意識を高め、生薬資源の国内生産を再構築、拡大して生薬自給率の向上を計る必要があります。

1.業界の産学に求められる事
*野生種から栽培種へ栽培技術の確立
*野生種と栽培種の同等性確保
*企業による中国における積極的な栽培事業の参入
*企業による栽培品種の積極的購入

2.国内生産の拡大のために求められる事
*国内中山間地域における栽培事業の展開
*生薬栽培の専用農機具開発
*企業による国産生薬の積極的購入
*林業と農業のコラボレションによる中山間地域活性化
*薬価価格の国産生薬薬価創設