栃本天海堂は、祖父が1932年(昭和7年)に大阪市内で薬局として創業しました。私は幼い頃から薬棚のある薬局を出入りし、生薬を身近に感じて育ちました。学生時代は、漢方を学ぶため、単身中国に留学し、栃本天海堂に入社後は、当社のあらゆる現場を経験しました。生薬と切っても切り離せない私の人生ですが、生薬の可能性に気づいたのは大人になってからでした。
栃本天海堂は、生薬の可能性を信じ、かげながら人々の健康な暮らしを支える会社です。生薬メーカーとしての栃本天海堂が目指すのは、煎じ薬という文化を守ることです。
生薬といえば漢方。中国で生まれた漢方ですが、日本でも煎じ薬は長い歴史があり、伝統的な知見が蓄積され独自の発展を遂げ、現在に至っています。患者さん一人ひとりの体質、体調にあわせて生薬が配合される煎じ薬、化学合成品などは使われず、天産品である生薬を煎じてそのまま飲むので、身体への優しさと、効き目の鋭さを持ち合わせたオーダーメイド型のお薬だと思っております。
暮らしの多様化が進むなか、一人ひとりにあわせて処方するからこそ、煎じ薬はその火が絶えることなく、これからも残りつづけると考えています。そのうえで、皆さまに3つお約束したいことがあります。
まず、種苗の保存です。栃本天海堂では、昔から続く純系株が絶えないように大切に栽培しています。交雑してしまうと歴史的に積み重ねてきた臨床結果にならうことが難しく、効き方に違いが出てしまうのです。煎じ薬にこだわるからこそ、本来の生薬の姿や力を守ろうと取り組んでいます。
次に、人材育成です。一人ひとりにあわせた調合が強みである煎じ薬ですが、処方できる人材が少ない現状にあります。漢方薬剤師の仕事に興味を持っていただくための啓発活動や教育を積極的に行なっています。
最後に、これからの暮らしになじむ煎じ薬、漢方薬のあり方の模索です。生薬を煎じて飲むのは手間がかかります。店舗まで足を運ぶことが難しい方もいらっしゃるでしょう。それらを解決していくことも我々の責任であると考えています。圃場から薬局での販売までを一気通貫でできる私たちだからこそ、これからの時代にあった生薬と暮らしのあり方を提案できます。 生薬のちからを信じ、その歴史と文化を大切にし、未来を切り拓いてまいります。