昨年より一般用医薬品の通信販売規制、民主党政権による漢方薬薬価削除問題等、漢方薬市場にとっては頭の痛い問題が続いていますが、漢方薬OTC市場ではユニークなネーミングやパッケージで新規参入の製薬会社が売上を伸ばし、新たな漢方薬ブームの様相を呈しています。これら漢方薬OTCの拡大にはユーザーの天然物嗜好や、底深い漢方薬への期待、関心が見て取れ、今後も漢方薬原料の生薬の需要は益々増大することが予想されます。
一方、漢方薬原料の生薬の供給面では主生産国の中国における野生生薬資源の枯渇、環境保護、残留農薬問題、土壌汚染、生薬栽培農地減少などで生産量、質とも低下の傾向にあります。また、生産減は価格上昇に繋がり、生薬薬価との逆ザヤ品目も増加傾向にあります。生薬生産量の減少は深刻で、価格よりも今後は各社による生薬原料の確保が最重要課題にな ると考えられます。
米国のサブプライムローン問題に端を発した2008年9月のリーマン・ショックの影響で世界経済が不況で喘ぎ、日本の経済成長率はマイナス6.6%と言われる中、中国の経済成長率(GDP成長率)は高い水準を維持し、2009年においても6%を超える成長率が予想され、2010年には10%とも言われています。また2009年12月に中国統計局の発表では工業生産高は1~11月では前年同期比10.3%の増で「世界の工業」を再認識させられます。
この中国の経済成長は日本の高度経済成長期と酷似しており、日本では農村から都市への集団就職が相次ぎ、農村部の所得水準が向上、農村の若者離れ、高齢化が続き、農産物の価格上昇と高付加価値の農産物への転換と進み、生薬生産は激減した経緯があります。
中国でも農村から経済発展の沿岸部に若者が移動し、農村人口は低下し、高齢化が進み、低価格農産物の生産は敬遠する傾向が強くなっています。
今後の生薬生産は生産者の生産意欲を維持する価格体系に移行しなければ、需要量を確保する事は難しく安定供給はおぼつかない現状があります。
2002年のSARS事件(重症急性呼吸器症候群)で中国国内において関連する生薬原料が急騰し、買占めなどによる品不足が発生し、日本市場で供給不安が起こったことがあります。今回の新型インフルエンザにおいても同じ傾向で関連生薬を中心に値上り、品不足を引き起こしております。
中国政府が治療及び予防で発表した漢方薬処方をご紹介いたします。この処方に関連する生薬はしばらく要注意品目と考えられます。
* 2009年5月8日:中国衛生部公表した処方箋
* 2009年11月7日:北京市中医管理局が公表した中薬配合の処方
2009年の後半から数々の生薬が予想以上に値上りを見せています。特に蒼朮、連翹、山薬、杏仁、酸棗仁、桔梗などは値上り幅が大きく、良品の手配も困難な状況にあります。その他総ての生薬が値上り基調にあり、日本市場の生薬流通価も変更を余儀なくされます。中国経済はバブルの様相で投機的要因も加味され生薬価格は高値を維持するか、もう一段上昇することが予想されます。
冗談で「庶民には漢方薬は高嶺の花、薬はジェネリック新薬」と言っていた事が本当に
なるのではと危惧する一年になりそうです。